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旧長浜市街地を南北に走る北国街道の東隣の通りにN邸はある。周辺は伝統的な町屋が軒を並べ集積している。
N邸は明治25年に建築され、以後120年経過している。設計依頼を受け、初めてN邸を訪れた時『既に再生された住まいでは』と感ずるほど、町屋の佇まいをうまく生かして暮らされていた。改修後も現在の佇まいが継承されることを望まれた。
N氏は、数年前に私共が長浜市内で手掛けた、湖北最古の町屋(四居家)の再生の事情をよく御存知であったことから、当初から再生することで心を決められていた。数回の間取り及び詳細の修正を経て設計を完了し着工している。
耐震補強については伝統的木造建築の構造特性を考慮して、斜材、面材での補強を避け、柔軟な耐力要素である、土壁、荒壁パネル、制震ダンパーを使用し補強している。
竣工後、しばらくしてN邸を訪れ、再生された住まいの感想をうかがった。『自分が生まれ育ったこの住まいには、随所に思い出となる跡が残されている。その思い出が断絶されることなく、継いで暮らせることで、とても気持ちが安心し暮らせる。』と語られている。私達が住まいに求めるテーマである『住まいは単なる住む器でなく、家族の記憶を溜めるもの』と改めて実感した再生事例である。
工事中は近隣に住まいされる多くの方が、道路ごしに再生する現場の移り変わりを観られている。私達も工事の現状を説明するパネルを設置し、修復の内容をわかりやすく説明している。
美しく蘇ったこの建物を訪れた若者の中に、将来古民家の再生に関わりたいと感じてくれる人があらわれ、そんな彼等がこの伝統的な町なみを守ってくれることを願っている。
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