●立地 「テラピス伊吹」は、伊吹山麓のまち滋賀県山東町の北方に位置する集落、間田の南端にあり間近に伊吹山スキー場がある。敷地の周辺は水田であるが、南方150mを東西に走る国道365号線沿いは、近年開発が進み、新しくショッピングセンター、店舗が建設され、新興の市街地になりつつある。敷地は、東に隣接する神社の森が延長するかたちで高木の欅などが林立する雑木林でおおわれている。雑木林は、西が小高い丘になっており、丘より北を見ると間近に雄大な伊吹山が一望でき、南は墨他山が遠望でき豊かな自然に囲まれたところである。
●建築計画 建物の計画にあたっては、場所に最大限の敬意を払い、その地形を変えることを避け、その地にあった木々は可能な限り残すよう心掛けた。また、その林から建物が突出しないよう建物のボリュームを低く押さえこんだ。
美しい眺望と豊かな自然、林の木々のゆらめき、通り抜ける風、刻々と位置を変える太陽、そんな自然の変化のリズムとともにある環境を“いやしの空間”として創り上げることをコンセプトとした。
外観
野外デッキ
建設にあたって要求されたものは、リラグゼーション機能を内在させた治療棟、治療機能を備えた浴室棟、管理住居棟であった。 まず、手付かずのままにあった林の樹木調査から行なった。 敷地内の立木一本ずつに番号札を付け、樹種、幹径、高さの調査を行ない敷地図の中へ落とし込んだ。 高さ10mを超える欅などの高木が十教本あり、建物の配置は、その樹木との位置関係で決 定されていった。 外部との接点となる外壁については、できるだけ壁の存在を感じないよう自然材料の杉板を使用し、薄く透けるやわらかい感覚のものとなるよう検討重ねた。建物内にいても、外部とも内部とも区分のつかないような空間、そんな空間とすることで外部の自然との調和を試みた。 また、豊かな自然がストレートに見られるよう、ガラス面も多用している。
透明度の高い建築の課題となる夏場の強い陽射し、冬場の外壁よりの熱損失に、どう対処するか検討課題が多いが、それに対しては、建物の周囲に溢れる樹木の自然の日照調整作用(夏場は繁った青葉が日差しを遮り、冬場は落葉し暖かい陽射が建物内に入り込む)に期待した。
内部についても、自然素材のもつ“いやし”の効果に期待した。つるりとして、均質で無表情な材料が氾濫する中で、ザラザラしたワラ入りの土塗り壁とプラスター中塗り壁、節だらけの杉板張り、竹小舞の竹と麻縄のあらわしと、見る人に遠くなりつつある記憶を呼び起こす、郷愁を感じさせる仕上げを多用した。
施設がオープンして間もなく不眠症の患者さんが外来で来られ、入口のドアを空ける間もなく南側の木製の屋内デッキに直行し、大の字になって寝てしまわれたとの話を聞いた時、心も体も癒される自然のもつ“いやしの空間”の効果を感じ取った。
治療室